司法書士が分かりやすく解説!相続放棄についてよくある「5つの勘違い」
亡くなった父親が事業を行っており多額の借金があった場合は、相続人である妻や子どもたちは借金を引き継がなくてはいけないのでしょうか?相続放棄の相談で典型的なのは、このような“負債相続”に関する事例です。
この場合、相続人は原則として借金を引き継がなくてはなりません。なぜなら、相続が発生した場合、被相続人(亡くなった人)のプラスの財産だけでなく、借金などのマイナス財産を含むあらゆる財産を相続人が承継することになるからです。
しかし、「相続放棄」を行うことによりマイナスの財産から免れることができます。相続放棄は原則として亡くなってから「3ヶ月以内」に家庭裁判所に対して行うことになります。一方、相続放棄を行うと、マイナスの財産だけでなく、預貯金、不動産などのプラスの財産も引き継ぐことができなくなります。
家庭裁判所の調査によると、下記のとおり相続放棄の件数は年々増えています。新型コロナウイルスの影響で、今後リーマンショックを上回る大不況が訪れると言われていますので、相続放棄の増加傾向はますます強まっていくものと思われます。
平成25年:17万2936件
平成26年:18万2082件
平成27年:18万9296件
平成28年:19万7656件
平成29年:20万5909件
平成30年:21万5320件
さて、今回は「相続放棄についてよくある5つの勘違い」について解説したいと思います。当然のことながら、相続放棄は人生において何度も経験するものではありませんので、ほとんどの人は何となく制度の概要知ってはいても、詳しいことはご存知ないのが普通です。本コラムを読んで、相続放棄についての理解を深めましょう。これから相続放棄を検討している方にとっては、必見の内容です。
目次
勘違い① 相続放棄は生前にできる
よくある勘違いの1つ目は、「相続放棄は生前にできる」という勘違いです。
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」にしなければならないとされていますので、相続が発生する前に行うことは一切できません。例えば、将来父親が亡くなった場合には、一切の相続を放棄すると父親の生前に言っていたとしても法的には何ら効力がありません。また、将来相続が起きた場合には相続の放棄をする旨の合意書や覚書などの書面を作成していたとしても法的には効力はありません。
これに対して、「遺留分」は、家庭裁判所の許可を得れば生前に放棄をすることは可能です。遺留分とは、一定の相続人に法律上認められた最低限の相続分のことをいいます。
遺留分は、配偶者、子、直系尊属にのみ認められており(兄弟姉妹には遺留分はない)、子のみが相続人になる場合は相続財産の1/2、子と配偶者の場合は相続財産の1/4が配偶者、1/4が子、配偶者と直系尊属の場合は相続財産の2/6が配偶者、1/6が直系尊属、直系尊属のみの場合は相続財産の1/3が遺留分として相続人に保障されます。遺留分の放棄を行ったとしても、相続人であることに変わりないので財産を相続することができますし、逆に負債があれば相続しなければならないことになります。なお、相続放棄を行った場合には、「初めから相続人とならなかったもの」となりますので、遺留分はなくなるということになります。
勘違い② 相続放棄が終わったら何もしなくていい
よくある勘違いの2つ目は、「相続放棄が終わったら何もしなくていい」という勘違いです。
相続放棄を行うことにより、借金などのマイナスの財産を承継する必要はなくなります。それでは、相続放棄の後は何も行う必要はないのでしょうか?
相続放棄をして借金を放棄した場合には、借入先である金融機関などに相続放棄した旨を通知する必要があります。相続放棄申述受理通知書や相続放棄申述受理証明書をFAXや郵送することになります。
悩ましいのは、不動産を相続放棄した場合です。近年、価値がないにも関わらず維持費がかかる空き家などの“負動産”を相続放棄するケースが増えています。たしかに、相続放棄を行うことにより負動産を承継する必要はありませんが、相続放棄をしたとしても一定の管理義務を引き続き負うことになりますので注意が必要です。これは、民法940条に「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と定められているためです。
つまり、相続放棄としたことにより次に相続人となった人が管理を始めるまでは、きちんと管理を続けなければならないということになります。また、相続人が全員相続放棄をした場合には、相続人が不存在となってしまいますので、「相続財産管理人」選任の申立を家庭裁判所に対して行い、相続人財産管理人が管理を開始するまでは、管理を継続しなければならないということになります。
勘違い③ 何も財産をもらわなければ相続放棄をしたことになる
よくある勘違いの3つ目は、「何も財産をもらわなければ相続放棄をしたことになる」という勘違いです。
相続が起きた場合、被相続人が遺した財産をどのように分けるのかについて相続人全員で話し合う必要あります。これを遺産分割協議といいます。よく誤解されているのは、この遺産分割協議において「何ももらわない」ことと「相続放棄」の違いです。前者は、単純に財産を何ももらわなかっただけですので、仮に借金などの負債があった場合には他の相続人と同じく引き継がなければなりません。なぜなら、マイナスの財産は相続人全員で引き継ぐのが原則であり、一部の相続人に引き継がせるためには金融機関などの債権者の承諾が必要だからです。これに対して、後者の「相続放棄」は家庭裁判所に対して行うものであり、これにより「初めから相続人とならなかったもの」のみなされますので、マイナスの財産を承継する必要もありません。
勘違い④ 亡くなってから3か月が過ぎたら相続放棄ができない
よくある勘違いの4つ目は、「亡くなってから3か月を過ぎたら相続放棄ができない」という勘違いです。
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内にしなければなりません。そして、判例では、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、一般的に①相続開始の事実を知り(=被相続人が亡くなったことを知り)、かつ、②そのために自分が相続人となったことを知った時、とされています。
通常は「亡くなった時」から3か月以内というのが相続放棄の期限になることが多いでしょうが、例えば、第1順位の相続人である子供全員が相続放棄をしたことによって、第3順位の兄弟姉妹が相続人となったような場合には、「第1順位の相続人全員が相続放棄したことを知った時」(=これにより自分が相続人だということを知る)から3か月以内ということになります。
また、例えば、被相続人が亡くなってから3か月が経過してから督促状が届いた場合など、3か月を過ぎてから債務の存在を認識した場合には、判例で「債務の存在を認識した時」から3か月以であれば相続放棄ができるということになっています。
なお、一定の事情があれば、家庭裁判所に申し立てることにより3か月以内という「熟慮期間」を延長することも可能です。
以上のように、被相続人が亡くなってから3か月を経過してしまったからといって、相続放棄ができなくなってしまうわけではありません。
勘違い⑤ 相続放棄をしたら死亡保険金も受け取れない
よくある勘違いの5つ目は、「相続放棄をしたら死亡保険金も受け取れない」という勘違いです。
相続放棄をすることによって「初めから相続人とならなかったもの」とみなされますので、マイナスの財産だけでなく、プラスの財産を相続することもできなくなります。ですので、被相続人が契約していた生命保険契約の保険金も受け取れなくなってしまうのでは、という誤解が生まれがちなのですが、受取人が相続人となっている場合には死亡保険金を受けとることが可能です。なぜなら、死亡保険金は「保険金受取人の固有の財産」とされており、民法上の相続財産とはならないからです。
ただし、死亡保険金は、相続税法上は「みなし相続財産」となりますので、ケースによっては相続税が課税される場合があります。また、相続税が課税される場合、相続放棄をした人は相続人ではありませんので、生命保険金等の非課税枠を利用することはできません。
最後に
今回は「相続放棄についてよくある5つの勘違い」について解説しました。ほとんどの方にとって相続放棄は初めての経験ですので、不安や焦りを感じるのが普通です。本コラムが皆様のお役に少しでも立てば幸いでございます。
ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア 代表
株式会社ミラシアコンサルティング 代表取締役
生前対策実務家倶楽部ミラシア 代表
千葉商科大学 特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事
相続、遺言、後見、家族信託などが専門。終活・相続関連の相談実績は累計1,000件を超える。
豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の終活・相続対策サービスを展開している。
【保有資格】
司法書士・行政書士・宅地建物取引士・AFP
【メディア実績】
フジテレビ「とくダネ!」、産経新聞、東京新聞、毎日新聞、夕刊フジ、ハルメク、週刊朝日、サンデー毎日、他多数
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