相続専門司法書士がズバリ解説!相続放棄した後の”空き家”はどうなるのか?
亡くなったご家族に借金などの負債があった場合には、家庭裁判所に対して相続放棄の申立を行うことにより、残されたご家族は負債を引き継ぐ必要はなくなります。相続放棄が完了した後に、金融機関などの債権者に相続放棄した旨を告げればその後請求や督促を受けることもないでしょう(相続放棄の手続きについては、「司法書士が徹底解説!相続放棄の手続きと流れ」をご覧ください)。
これに対して、“空き家”などの不動産を相続放棄した場合はどうなるのでしょうか。管理コストばかりがかかり、あまり価値がない空き家は相続したくないというケースも多いでしょう。この場合、借金などの負債の相続放棄と異なり、相続放棄だけで全てから免れるというわけではありません。負債については相続放棄をすれば法律上返済する必要は一切なくなり、その後法的には特に何も行う必要がありませんが、空き家などの不動産の場合は相続放棄をしただけで全てが解決とはいかないのです。
それでは、相続放棄した後の不動産はどうなるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
目次
1. ”空き家”と相続放棄
相続が発生した場合、原則として相続人が亡くなった方(「被相続人」といいます)の一切の財産を引き継ぐことになります。
そこで、相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から「3か月以内」に単純承認(プラスの財産・マイナスの財産の全てを承継する)するか、限定承認(プラスの財産の限度でマイナスの財産を承継する)するか、相続放棄(プラスの財産・マイナスの財産の全てを放棄する)するかの選択をすることになります。この3ヶ月の期間は「熟慮期間」と呼ばれており、どのような選択をするかを決定する非常に重要な期間となります。
相続放棄を行うためには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申述を行わなくてはなりません。相続放棄を行う場合には、前述のように「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内にしなければならないと決まっています。そして、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、判例により①相続開始の事実を知り(=被相続人が亡くなったことを知り)、かつ、②そのために自分が相続人となったことを知った時、とされています。
司法統計によれば、相続放棄の件数は、年々増加傾向にあります(平成25年:17万2936件/平成26年:18万2082件/平成27年:18万9296件/平成28年:19万7656件/平成29年/20万5909件/平成30年:21万5320件)。平成30年の相続税納税者数が25万8498人ですので、それに匹敵する数の方が相続放棄を行っていることになります。
空き家問題が深刻化してくる中で、親から引き継いだ空き家の処分に困り、相続放棄を選択する人はこれからより一層増加していくと言われています。
ここで注意が必要なのは、相続放棄を行った場合には、負債を引き継ぐ必要がなくなるだけでなく、お金や不動産などのプラスの財産も一切相続することができなくなります。これは相続放棄を行うことにより、「初めから相続人ではなかった」ことになるからです。つまり、相続放棄をすれば空き家や負動産を引き継ぐ必要はなくなりますが、他に預貯金などのプラスの財産があった場合にはそれらも引き継ぐことができなくなってしまうのです。また、熟慮期間中に空き家を解体してしまった場合には、相続財産の「処分」をしたとして単純承認事由に該当し相続放棄ができなくなってしまうことにも注意が必要です。
現行の制度では、空き家など特定の不動産だけの所有権を放棄することは認められていません。この点、法制審議会の「所有者不明土地対策を議論する部会」では、被相続人から相続した土地を相続人が管理できなくなり放置することが所有者不明の土地が発生する原因の1つとされており、一定の場合に土地の所有権放棄を認める民法の改正案が議論されています。近い将来、特定の不動産だけの相続放棄ができるようになる可能性があります。
2. 相続放棄したとしても残ってしまう一定の管理義務
相続放棄を行うことにより、”空き家”などの不動産を引き継ぐ必要はなくなります。したがって、原則として固定資産税や管理費など不動産関連の費用を支払う義務はなくなります。
ところが、借金などの負債と異なり、不動産の相続放棄の場合、相続人は一定の管理責任を負わなくてはなりません。なぜなら、民法940条に次のような規定があるからです。
「相続放棄をした者は、その相続放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
この規定により、相続放棄をした場合であっても、他の相続人や後順位の相続人が不動産の管理を開始できるようになるまで、管理を継続しなくてはならない、ということになります。また、全ての相続人が相続放棄をした場合には、家庭裁判所から選任された相続財産管理人が管理を開始するまで、管理を継続しなくてはなりません。つまり、「次の管理者」が決まるまで管理を続けなくてならないことになります。
なお、よく誤解されていますが、相続放棄をしたからといって空き家が自動的に国の所有となるわけではありませんので注意が必要です。国庫に帰属させるためには法律上一定の手続きが必要となり、この手続きは簡単ではありません。
3. どのような管理責任を問われるのか
それでは、不動産を相続放棄した人はどのような管理責任を問われることになるのでしょうか。主に下記の2つが考えられます。
①空き家の管理者として責任
空家特措法(空家等対策の推進に関する特別措置法)の第3条には次のように規定されています。
「空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする。」
相続放棄した人もこの「管理者」にあたるとされていますので、適切な管理を継続しなければならない努力義務があります。また、いわゆる「特定空き家」(そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家)に該当する場合には、市町村長から必要な措置を講じるよう指導や勧告などを受ける可能性もあります。
※相続放棄した者を空家特措法の管理者と解して、第三者に対して空家特措法の管理責任を負担すると解することは困難であるとの見解もあります。
②空き家の倒壊などによって第三者の損害を与えた場合の賠償責任
民法717条には次のように規定されています。
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」
したがって、空き家が倒壊して隣人に損害を与えてしまった場合、空き家の壁や屋根が崩れ落ちて通行人に怪我をさせてしまった場合など、第三者に損害を与えてしまった場合には、賠償責任を負う可能性があります。
このように、相続放棄をしたとしても「次の管理者」が決まるまでは、引き続き一定の管理責任を相続人は果たしていかなければならないのです。
4.管理責任を免れるためにどうすればいいのか
他の相続人や後順位の相続人がいれば、これらの人に空き家の管理を引き継ぐことによって管理責任から免れることになります。
また、相続人全員が相続放棄を行っている場合には、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立を行って、相続財産管理人に空き家の管理を引き継ぐことによって管理責任から免れることができます。相続財産管理人には、弁護士などの専門家が選任されるのが一般的です。
5.相続財産管理人選任の申立時における大きな障害
相続放棄をした人が相続財産管理人選任の申立を行う際に大きな障害となるのが、家庭裁判所に納める「予納金」の存在です。予納金とは、相続財産管理人の報酬や経費として予め家庭裁判所に納める費用のことをいいます。事案や地域によって異なりますが、30万円~100万円程度を求められることが多いと言われています。空き家の相続放棄の場合、他に預貯金などの相続財産がない可能性が高いでしょうから予納金は高額になることが予想されます。
この予納金は、申立の際に準備をしなければなりませんので、申立人にとっては大きな負担となっています。
6.まとめ
相続放棄することによって空き家を承継する必要はなくなりますが、一定の管理義務を負い続けることになります。管理義務から逃れるためには、他の相続人・後順位の相続人や相続財産管理人に管理を引き継がなくてはなりません。相続放棄の対象となるような空き家の場合、相続人全員が相続放棄をする可能性が高いでしょうから、相続放棄をしたとしても、結局は相続財産管理人の選任に費用がかかる、ということになりかねませんので注意しましょう。また、当たり前のことではありますが、相続放棄をした後は空き家の所有者ではありませんので、自分で空き家を売却することはできません。
このように、空き家の相続放棄の場合、安易に相続放棄を選択することによってかえって事態が悪化する可能性があります。事前に一度専門家に相談することをおすすめします。
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア 代表
株式会社ミラシアコンサルティング 代表取締役
生前対策実務家倶楽部ミラシア 代表
千葉商科大学 特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事
相続、遺言、後見、家族信託などが専門。終活・相続関連の相談実績は累計1,000件を超える。
豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の終活・相続対策サービスを展開している。
【保有資格】
司法書士・行政書士・宅地建物取引士・AFP
【メディア実績】
フジテレビ「とくダネ!」、産経新聞、東京新聞、毎日新聞、夕刊フジ、ハルメク、週刊朝日、サンデー毎日、他多数
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