相続専門司法書士が徹底解説!相続放棄の手続きと流れ
亡くなった家族が多額の借金を抱えていた・・・残された相続人は法律の手続きに従って「相続放棄」をしない限り、原則として借金を引き継がなくてはなりません。
それでは、相続放棄をするためには、具体的にどのような手続きをどのような流れで進めていく必要があるのでしょうか。相続放棄ができる期間は法律で原則として「3ヶ月」と決まっています。もしもの時に慌てることのないように、事前に知っておくと安心です。
今回は、相続専門の司法書士が「相続放棄の手続きと流れ」について徹底解説いたします。
目次
相続放棄の手続きと流れ
相続放棄の手続きと流れは下記のようになります。事案によっては異なることはありますが、概ねこのように進んでいきます。
ステップ1 相続放棄の期限の確認
↓
ステップ2 必要書類の準備
↓
ステップ3 管轄家庭裁判所の確認
↓
ステップ4 相続放棄申述書の作成・提出
↓
ステップ5 照会書の受領・返送
↓
ステップ6 相続放棄申述の受理決定
↓
ステップ7 債権者への連絡
↓
ステップ8 後順位相続人への連絡
それでは、それぞれのステップを詳しく確認していきましょう。
ステップ1 相続放棄の期限の確認
相続放棄は、民法という法律で「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内にしなければならないと決まっています。そして、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、判例により①相続開始の事実を知り(=被相続人が亡くなったことを知り)、かつ、②そのために自分が相続人となったことを知った時、とされています。この3ヶ月の期間を「熟慮期間」と呼ばれており、相続放棄をするか否かを決定する非常に重要な期間となります。
多くのケースでは、「亡くなったことを知った時」から3ヶ月以内が熟慮期間に該当することになるでしょう。
それでは、3ヶ月を経過してから借金などの債務の存在を知ったときはどうなるのでしょうか。この場合、判例により債務が存在しないと信じる「相当な理由」がある場合には、督促状など債権者からの通知により「債務の存在を知ったとき」から3ヶ月以内が熟慮期間となるとされています。
熟慮期間が過ぎてしまうと相続放棄ができなくなってしまいます。まず初めにしっかり期限を確認しましょう。熟慮期間の判断に迷った場合には、専門家に相談しましょう。
ステップ2 必要書類の準備
相続放棄を行うためには、家庭裁判所に提出する必要書類を準備する必要があります。
具体的には、本人が死亡したことが分かる戸籍や、申述人(=相続放棄する人)の戸籍謄本などを揃えて必要があります。死亡した人との家族関係によって、必要書類が大きく異なり、取得に長期間を要する場合がありますので注意が必要です(詳細は下記の表を確認しましょう)。期限が迫っている場合やご自身で取得するのが難しい場合には、必要書類の収集を専門家に依頼するのが賢明でしょう。
また、相続放棄の申立てには、申述人1名につき800円の収入印紙を納める必要があります。また、今後の裁判所との連絡用に、所定の郵便切手を用意する必要があります。管轄の家庭裁判所ごとに郵送費の金額が異なりますので、事前に確認しましょう。
<相続放棄の必要書類一覧>
上記に加えて、本人の死亡から3ヶ月を経過している方の申立ては、上記の他に「上申書」などの追加資料を作成・準備する必要がありますので、専門家に相談した方がよいでしょう。
なお、相続放棄は相続人全員で行う必要は無く、相続人1人1人の判断で個別に行う手続きです。複数の相続人が同時に相続放棄を申立てる場合、重複する必要書類については、1通のみ取得すれば問題ありません。
ステップ3 管轄家庭裁判所の確認
相続放棄をするためには、管轄の家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄の裁判所になります。管轄が分からない場合には、裁判所のHPなどで確認することができます。
また、亡くなった方の住所が不明な場合には住民票の除票や戸籍の附票を取得することにより調べることができます。住所の調査を専門家にお願いすることもできます。
ステップ4 相続放棄の申述書の作成・提出
必要書類が整い、提出先(管轄裁判所)を確認したら、「相続放棄の申述書」を作成します。住所、氏名、本籍地などを戸籍や住民票の記載に従って正確に記入しましょう。申述書には「相続の開始を知った日」や「相続放棄をする理由」など、相続放棄を認めるかどうかの裁判所の判断に影響する重要な項目がありますので、記入には十分に注意しましょう。また、言うまでもなく虚偽の記載することは絶対に行ってはなりません。
申述書の作成を終えたら、準備した必要書類や収入印紙とともに、管轄の家庭裁判所へ提出します。提出方法は直接家庭裁判所の窓口で提出する方法と、郵送によって提出する方法があります。
ステップ5 照会書の受領・返送
家庭裁判所に相続放棄の申述書類一式を提出し、一定期間(通常1~2週間程度)が経過すると、家庭裁判所から申述書を提出した相続人に「照会書」が送付されます。この照会書は、裁判所から相続放棄をするあなたへの質問状のようなものです。提出期限が設けられていますので、期限内に回答し、家庭裁判所へ提出をする必要があります。
照会書の内容は、選択肢のうち該当するものに◯をする形式によって回答する部分と、文章で回答する部分があります。照会書への対応によっては、相続放棄が受理されない場合もありますので、照会書への記載は慎重に行うことが求められます。申述書と同様に虚偽の記載することは絶対に行ってはなりません。対応に不安を覚える場合には、専門家に相談してみましょう。
ステップ6 相続放棄申述の受理決定
照会書を家庭裁判所へ提出し、家庭裁判所の審判によって相続放棄の申述が受理されると「相続放棄申述受理通知書」という書面が家庭裁判所から送られてきます。この書面は申述人の相続放棄を家庭裁判所が正式に認めたことを知らせるものです。これにより無事に相続放棄ができたことになり一安心となります。一般的に、照会書を提出してから1週間から2週間程度で相続放棄申述受理通知書が届くことになります。
ステップ7 債権者への連絡
金融機関やサラ金業者などの債権者から督促状などの通知が届いている場合には、相続放棄が完了した旨を知らせる必要があります。
債権者に相続放棄を知らせる方法としては、上記の「相続放棄申述受理通知書」を送付する方法もあれば、別途「相続放棄申述受理証明書」という書面の提出を求められる場合もあります。相続放棄申述受理証明書とは、第三者に対して相続放棄が確かに完了していることを証明する書面で、家庭裁判所から発行されます。取得するには、請求用紙と150円分の収入印紙を貼付して家庭裁判所に提出します。こちらも窓口・郵送のいずれでも可能です。上記の「相続放棄申述受理通知書」が送られてくる際に、証明書の請求用紙が同封されている場合もありますので、これを利用して請求をするとスムーズでしょう。
債権者に「相続放棄申述受理通知書」や「相続放棄申述受理証明書」を提出することにより、その後請求や督促がなされることはありません。
ステップ8 後順位の相続人への連絡
同順位の相続人が全員相続放棄を行った場合には、相続権は後順位の相続人に移ることになります。例えば、父親が借金などの債務を残して亡くなり、配偶者、子供全員が相続放棄をした場合には、父親の両親に債務が移転します。父親の両親がすでに他界していれば、父親の兄弟(兄弟が他界していればその子供)に債務が移転します。したがって、可能であれば後順位の相続人へ連絡してあげるのがよいでしょう。相続人が誰になるかについては、「相続放棄前に必ず確認!相続人には誰がなるの?」をご覧ください。
なお、相続放棄をすることによって借金など債務から免れることはできますが、後順位の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで(相続人全員が相続放棄を行い相続人が誰もいなくなった場合には、相続財産管理人が管理を始めるまで)、財産の管理を継続しなければならないとされています。特に、相続財産に不動産がある場合には、相続放棄が完了した後に相続財産管理人の選任の申し立てを家庭裁判所に行い、管理を相続財産管理人に引き継がなければならないケースがありますので注意しましょう。
まとめ
以上が一般的な相続放棄の手続きと流れとなります。相続発生から3ヶ月を経過している場合などケースによってはより複雑な手続が必要となる場合もあります。
相続放棄は期限が過ぎてしまうと行うことができなくなります。また、一度相続放棄を行うと後に撤回することは非常に難しくなります。実際に相続放棄を行う際は、一度専門家に相談してみましょう。
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア 代表
株式会社ミラシアコンサルティング 代表取締役
生前対策実務家倶楽部ミラシア 代表
千葉商科大学 特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事
相続、遺言、後見、家族信託などが専門。終活・相続関連の相談実績は累計1,000件を超える。
豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の終活・相続対策サービスを展開している。
【保有資格】
司法書士・行政書士・宅地建物取引士・AFP
【メディア実績】
フジテレビ「とくダネ!」、産経新聞、東京新聞、毎日新聞、夕刊フジ、ハルメク、週刊朝日、サンデー毎日、他多数